高校生の頃、父が借金を作った上にアルコール依存症になり、家庭環境が激変しました。家庭内はケンカが絶えず、私も当時は父に水を掛けたり包丁を付きつけたりしたこともありました。日々の生活が壮絶で、二度と経験したくない時代です。
家に帰るとケンカに巻き込まれてしまうため、勉強を理由に夜遅くまで地域の公民館に逃げていました。将来の指針が全く立たず、不安と苦痛の日々でしたが、その時に寄り添って話を聴いてくれたのが、公民館の職員さんたちです。彼らの力がなければ、私は高校生活を過ごすことはできませんでした。私のような子どもには、こういう大人の存在が必ず必要だと思います。
19歳の時にやっと両親が離婚して名実ともに母子家庭になりましたが、私は大学入試に失敗して浪人中。母の給料で生活費をまかない、受験にかかる費用はアルバイトで工面せざるを得ませんでした。大学進学後は、奨学金や教育ローンで850万円ほど借金をした状態になりました。仕送りはなく、大学4年間と大学院の間はすべて自分のお金でやりくりしました。母子家庭では金銭的に親に頼ることができません。将来、奨学金や教育ローンを返済できるのか、プレッシャーを感じます。
でも母子家庭を経験すると、母親の努力が見えてきます。食事を作り、育児や学校行事の準備をし、そして働いて生活費を稼がねばなりません。父親と母親がいれば分担できることを一人で背負うのは想像以上に大変です。一人で頑張ってきた母に私は頭が上がりません。
大学と大学院で社会福祉を専攻したのは、父のアルコール依存症で家庭が崩壊したことや、母子家庭を経験したことに関係しています。卒業後はある自治体で福祉関係の職に就き、生活保護ケースワーカーや福祉施設担当を歴任しています。
他の母子家庭世帯から見たら私の経験など大したものではないかもしれません。だけど母親の苦労はわかります。それだけでもわかれば、母子世帯に寄り添っていけると思います。そう気づかせてくれたこれまでの経験や出会いに感謝しています。
(体験者:NAさん)