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DVを受けたあなたへ。親と子の心のケアについて

DVを受けたあなたへ。親と子の心のケアについて

私は2008年から、DV被害にあわれて、いまは加害者から離れて生活しているお母さんと子どもたちにプログラムを提供し、一緒に考えていく活動をしてきました。

DVのある生活環境の中で、お母さんたちがひどく傷つけられていることに心を痛め、ともに学びあい、話し合う中で、多くを学ばせていただきました。

同時に、DV環境で育ってきた子どもたちの受けた被害の大きさを実感として知ることにもなりました。子どもたちは育つ環境を選ぶことはできません。それが暴力や支配に満ちた環境であってもその中で生きていくことしかできないのです。

そしてそうした環境に適応するために様々な行動を学習してきています。周りの動きに関心を示さず自分の活動に没入したり、自分の思い通りにならないと攻撃的になったり、いつも周りの人たちの顔色を見ながらなんとかやり過ごす等、様々な行動をとることで環境に適応していきます。

学習してきた行動が、お母さんとともにDVから離れて生活できるようになり、新しい保育園や学校に通うようになっても保持され、集団や家族の中で目立ってくることもあります。

しかし、学習してきた行動は、再学習つまり学習し直すことができるのです。プログラムでは、暴力について、感情について、これまでの体験について、問題解決の方法について等々をテーマに、子どもたちは知識を得て、スタッフと一緒に考えていきます。
そして、暴力や父親と母親が別れたのは自分のせいではなかったことを理解し、ほっとした表情を見せる子どももいるのです。

子どもたちの中には、意識せずに暴力的・支配的な行動をとることで自分を守ろうとする子どもも見かけます。友達やほかの人たちとの関係を気持ち良いものにする新しい行動の仕方を学ぶことは重要です。また、グループを通して、子どもたちが「自分だけでなかった」と同じような体験をしてきた仲間と出会い、共感し合うことで得られる安心感は大きなものです。

それはお母さんたちにも言えることです。他所では決して言わない夫からの暴力のことや子どもとの関係の悩みも、ここでは言えて、「そうだったの、大変だったね」と共感してくれる仲間に出会えたことは、安全で安心できる関係体験となります。

そしてDVについて知識を得てご自身の体験を整理していきます。お母さんたちの中には、「自分が〜ができなかったから暴力を受けた」「自分が至らなかったから子どもにつらい思いをさせた」と自分を責めている方がいらっしゃいます。

でも、暴力や暴言の行き交う状況から離れるという決断をし、実行に移したお母さんの勇気は素晴らしかったと私は思います。子どもをDV環境から守ったのはお母さんの勇気ある行動だったのです。

統計を見ると、ひとり親家庭の大変さ厳しさを強く感じます。

でも一人一人のお母さんにお会いすると、それぞれ悩みを抱えながらも、頑張っていらっしゃる姿に心励まされます。どうぞ胸を張って仲間とともに生き生きと歩んでいってください。心からのエールを送ります。

インフォメーション

DV相談ナビ

配偶者や恋人からの暴力(DV)について、専門の相談員が一緒に考えてくれます。面談・同行支援・保護なども行っています。内閣府男女共同参画局が提供。

◎WEBサイトはDV相談ナビ(男女共同参画局WEBサイト)
◎相談機関を電話で案内するDV相談ナビは#8008(全国共通)(匿名での利用可)

DV相談+(プラス)

新型コロナウイルス感染症拡大による相談窓口の増設。電話・メール相談は24時間受付、10ヵ国語対応。DV相談ナビと同様にDVについての相談や面談・同行支援・保護などを行っています。

◎WEBサイトはDV相談+(内閣府WEBサイト)
◎電話相談は0120-279-889(ツナグ ハヤク)
◎メール相談はこちら
◎チャット相談はこちら(12:00~22:00)

専門家プロフィール

春原由紀(すのはらゆき)
武蔵野大学名誉教授

春原由紀(すのはらゆき)

1948生まれ。お茶の水女子大学卒、大学院修了。子ども・家族臨床を専門とし、埼玉純真女子短期大学で幼児教育・保育者養成にかかわった後、2012年まで武蔵野大学・大学院で児童臨床心理学を主に臨床心理士の養成に携わる。1996年より原宿カウンセリングセンターでカウンセリング業務を26年間継続。2008年より、DV被害に曝された母子への支援プログラム(コンカレントプログラム)を実施している。編著に『子ども虐待としてのDV』(星和書店)

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